生活費保障論を基本的には正しいとして、その弱点をカバーするために、私は仮説として、「生活費保障プラス能力形成」説を考えている。年功賃金は戦後、電産型賃金体系として出発した。年功賃金は前近代的であり経済的合理性を欠いている、という根強い批判にもかかわらず、今日まで存続してきた。年功賃金が高度成長期をへて今日まで存続したもっとも大きな理由は、それが経済的に合理的であったことによっている。年功賃金のもとでは、若年者はもっとも賃金が低い。
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高度成長期はもちろん、会社が成長し拡大していくとき、若年者を大量に採用できるならば、年功賃金は賃金コストを安くする。また、仕事に対応しない年功賃金は、技術革新に適合的であった。戦後の技術革新は、急スピードでおこなわれた。新しい職務がつぎつぎに生まれた。厳格な職務給が実施されていたならば、会社は頻繁に職務評価をおこなわなければならず、そのための時間とエネルギーは多大なものになったであろう。それ以上に問題となったかもしれないのは、職務評価の内容をめぐる労使の対立である。たとえば、厳格な職務評価制度を実施しているドイツでは、新しく誕生した職務をどのように評価し、賃金ランクのなかに位置づけるかは、潜在的・顕在的に労使対立のひとつの要因であった。日本の賃金制度は属人給的であるため、こうした労使対立がおきなかった。技術革新はこうした対立なしにスムーズにおこなわれた。